くりーむぱん

☆注意☆
今日の記事は、三原市の八天堂さんに触発を受けて書いた記事、ではなく、自らの修行先についての批評記事をよんだことに若干の違和感を感じて書いたものです。こんな気遣いをしなければならないのか、疑問ですが・・・。
私は八天堂さんの商売は「すごいなぁ」と思っています。すくなくとも、うちじゃ、あれほどの話題性のある展開はできないでしょうねぇ・・・。


 私の修行先は「クリームパン」でとっても有名なお店である。

 そんな関係か、クリームパンについて考えることが数点ある。

 クリームパンの大切なことは何だろうか。
 クリームパンとしての、パンとクリームの一体感だと思う。

 こう考えた場合、パンはクリームを支え、クリームはパンに寄りかかる互助作用が必要と思われる。クリームだけ食べても、パンだけ食べても、それぞれが成り立つ上に、合わせることで相乗効果を生み出すようなパンが、上質なクリームパンといえるのかもしれない。

 クリームパンのクリームは、若干古めかしい「カスタードクリーム」で、洋菓子系のさらっとしたクリームではない。パン屋のカスタードクリームである。パン屋と洋菓子屋のカスタードクリームの差は、職人的に言うと「コーンスターチ」などのでんぷん質をどのくらい加えるか、という点で差がつく。
 洋菓子屋のほうがコーンスターチが少なく、さらりとしている。パン屋はもったりしている。これはたんなる食べ口の差にしかならない・・・はずなのだが、そうでもない点もある。

 とても重要な点として、「カスタードクリームの再度火入れ」という点があるように感じる。つまり、パン屋のカスタードクリームは「パンに包む&オープンで焼く」という、2度目の火入れ工程が入ってしまうということである。
 これは風味上ダメージが大きい。なにしろ「香り」というものは「分子」である。「分子」は熱を加えると活発に動き出す。つまり「香り」が飛んでしまう。カスタードの主要な香りとして「牛乳」と「卵」が考えられるが、その両方とも繊細な香りであり、熱には弱い。

 では、香りが保持されるクリームパンはどのような形式か、となると、最近人気のクリームパンのように、パンが焼き終わり、あとからクリームをつめる「シュークリーム方式」が最善の策と思われる。そう、香りや風味を最優先にすれば、そうならざるを得ない。

 しかし、どれかを優先すると、なにかが欠ける。再度、火を通すことで、風味は失われるが、保存性は増す。つまり、クリームパンを常温保存した場合、若干日持ちがする(若干、である)。

 では、某大手のクリームパンはどうなのか、という話もある。常温でかなり持つではないか、と。
 この場合、内容物表示をしっかり読めば、かなり良くわかる。簡単に言うと、加工された乳や卵を使い、適切なPh調整剤などを使用すると、常温でも日持ちするクリームが作ることができる。食品衛生法でも問題はないし、安全である。ただし、風味はかなり劣る。その劣った風味を香料などで補填し、味を確保するのである。
 日持ちしないものを日持ちさせることは、不自然なことなので、不自然な手当てを行わないと、成り立たないのである。

 さて、かなり遠回りしてしまったが、直球で言うと、こうなる。

「まともなクリームパンをまともに作ることは大変難しい」

 オギロパンのクリームパンはまともじゃないのか、と言われそうであるが、私から見ると、まともなクリームパンである。
 ただし、パン屋としてまともであり、パンとクリームのコンビネーションで言うと、中の上あたりであり、洋菓子屋のカスタードクリームとは勝負にならない。しかし、大手のクリームパンとは勝負できる。

 わたしの修行先のクリームパンは、私としては衝撃的なクリームパンだった。たった15年ほど前には、そのクリームパンは、びっくりするほど旨かった。もちろん、今でも旨いが、15年前に、それほどのクリームパンは世の中にはなかったのではないだろうか。
 すくなくとも、私にとってはオギロパンよりもずいぶん旨いクリームパンにめぐり合ってしまい、度肝を抜かれたものである。
 
 そんな私が、数回ジャスコ三原店で、クリームパンを作ったことがある。ひとりで作っていたため(しかも、通常メニューに上乗せで・・・)、1日300個弱が限界であった。前日のカスタードを炊き、当日に一生懸命つめて焼き、夜に翌日のカスタードを炊いていた。
 商品として評判は良かったのだが、私が参ってしまった。体力的に。

 私としては、そのときに作ったクリームパンには、若干不満が残る。
 まず、卵・牛乳の質が、普通で、もっと上質な卵・牛乳を使うことにより雑身を排除でき、透き通った味のクリームを作ることができる。これが結構重要。風味豊かな卵・牛乳を適切な手順で適切に炊くことで、おいしいカスタードを炊くことが、おいしいクリームパンには必須条件なのである。
 クリームパンに整形し、再度オーブンで火を通すのだから、劣化する風味を計算に入れて、クリームの風味は最上にしておかなければならない。しかも、劣化する風味は無駄死なのだ。もったいない・・・。

 炊き立てのクリームは、すばらしくおいしい。そんじょそこらのプリンに負けない。それを再度火入れしなければならない、クリームパンの宿命をうらむしかない。

 おいしいクリームパンとは、まともに作ろうと思うと、案外大変なのである。
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